「税務訴訟に携わって」 税理士 平 仁
私が税務訴訟に初めて関わったのは、平成18年の秋でした。亡き父の友人であるクライアント企業の社長が、決算の打合せで私の事務所に来所された時に、「実は東京都から税金を払えと言われて裁判をやっているんです」と切り出されたことがきっかけでした。その社長さんは、つい出来心から不正軽油取引を手伝ってしまったところ、東京都からその社長さん個人のみに軽油取引税を課されたことを巡り、弁護士と訴訟に取り組んでいたことを、地裁判決が結審した後で私は初めて知ったのです。その際、「判決が出たら判決文をぜひ見せて欲しい」とお願いしていたのですが、年も押し迫った同年12月14日、暗い声で電話が鳴りましたので、「敗訴したな」を感じ、「とにかく判決文を持って事務所に来て下さい」と伝え、初めて訴訟内容を知りました。
東京地裁民事三部での完全敗訴。 この敗訴判決を受けて、私は訴訟に関与することになったんです。
私が関与するに当って、引き続きお願いすることになった弁護士には、訴状の原案を私が作り、弁護士に修正をお願い致しました。具体的な内容は詳しくお書きできませんが、東京高裁平成20年7月10日判決で逆転勝訴(全部取消)を勝ち取ったものの、最高裁平成22年2月16日判決で破棄差戻、現在、東京高裁で係争中です。
この事件の取引の時期が、ちょうど私が独立するかどうかでバタバタしていた時期で、税務調査が行われた時期が独立直後。私の経験不足と若さもあり、クライアントからすれば頼りにならなかったのか、裁判なので税理士には関係ないと思われたのか、定かではないのですが、クライアントとのコミュニケーション不足が招いた事態だったのでは、と考えざるを得ません。その意味では、税務と直結しない話であっても、クライアントが相談してくる関係を構築すべきことを痛感させられています。
4年前の痛い思いが私を成長させてくれたとも言えるのですが・・・
また、行政訴訟や税務訴訟に慣れていらっしゃる弁護士であればともかく、特に税務訴訟は専門技術性が高いだけに、弁護士がよく分かっていないケースも多いようです。この事件でも、弁護士は初めて税務訴訟を引き受けたとのことでした。そういう場合には、税理士が、税法の専門家として弁護士をリードしていく必要性が高いと言えるでしょう。
ところで、最高裁平成16年7月20日判決、いわゆる平和事件最高裁判決は、「規定の趣旨、内容からすれば、株主又は社員から同族会社に対する金銭の無利息貸付けに本件規定の適用があるかどうかについては、当該貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息としたことの理由等を踏まえた個別、具体的な事案に即した検討を要するものというべきである。(略)本件各解説書は、その体裁からすれば、税務に携わる者においてその記述に税務当局の見解が反映されていると受け取られても仕方がない面がある。しかしながら、その内容は、(略)代表者の経営責任の観点から当該無利息貸付けに社会的、経済的に相当な理由があることを前提とする記述であることができるから、不合理、不自然な経済的活動として本件規定の適用が肯定される本件貸付けとは事案を異にするというべきである。そして、当時の裁判例等に照らせば、被上告人の顧問税理士等の税務担当者においても、本件貸付けに本件規定が適用される可能性があることを疑ってしかるべきであった。」と判示しています。
このことは、税理士にとって甚大な影響を持っています。判例等をしっかり理解した上で、高度な税務判断を求められているのが税理士等の専門職業人であると考えられますから、税金計算の適正性だけではなく、納税者と租税行政庁との間の見解の相違を是正することも、専門職業人の職業倫理上の責務と考えるべきでしょう。
アコード租税総合研究所は「納税者と租税行政庁との間のコンフリクトの解消あるいは未然防止のために、双方の架橋を図ることを目的として」設立されました。まさに、これからの税理士のために必要とされる分野であり、私も少しでもお役に立てればと考えております。
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