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    賃貸マンションの管理組合に支出した管理費等の損金算入の可否
    (福岡地裁平成21年12月22日判決(TAINSコードZ888-1548))

     事実の概要

     本件は、原告Xらが、@その区分所有する賃貸用マンション(以下、本件各マンション)の各管理組合(以下、本件各管理組合)に対して支出した管理費(以下、本件各管理費)及び修繕積立金(以下、本件各修繕積立金)(以下、管理費と修繕積立金を総称して管理費等)を損金の額に算入して法人税の確定申告をし、A本件管理費等を課税仕入れとするなどして消費税等の確定申告をしたところ、被告Y(福岡税務署長)は、@法人税については、本件管理費等のうち業務費用等及び修繕費用等に使用されていない剰余金並びに上記固定資産売却損は、損金の額に算入されないとして、また、A消費税等については、本件管理費等はその全額が課税仕入れに該当しないなどとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、原告Xらが上記各処分はいずれも違法であると主張してその全部の取消しを求めたものである。

     なお、本件では、原告X4が行ったマンションの売却に対する固定資産売却損の損金性及び課税仕入れ該当性、その譲渡時期の仮装行為による重加算税賦課要件、同行為による青色申告取消要件についても争われているが、本研究では取り上げない。

     前提事実

    (1)原告X1は内装工事業等を、X2は不動産管理等を、X3、X4は不動産賃貸を業とする法人である。

     争点1 本件管理費等の損金性

    (被告Y税務署長の主張)

    (1)原告らが本件管理費等を支出した時点においては、@本件管理費全額が、本件各管理組合の管理業務に費消されるとは到底認め難いこと、また、A本件管理費のうち、いくらが管理業務等に費消されるかの合理的な算定根拠もないことからすると、原告Xらが。本件管理費として支出した金額を全額損金として認識することは不可能(又は困難)であり、本件管理費の支出をもって法人税法22条3項及び法人税基本通達2-2-12でいう「債務の確定した費用」と見ることはできない。 したがって、被告Y税務署長が、本件管理費について、原告Xらが本件管理費を支出した日の属する事業年度の終了の日までに、本件各管理組合において、業務費用等として実際に費消された額のみを原告Xらの当該事業年度の法人税の計算上、損金の額に算入すると判断したことは合理的である。

    (2)本件修繕積立金については、その一部は実際に修繕費用等で使用されるほか、大部分が剰余金として本件各管理組合の財産目録に記載されている。しかし、そもそも修繕積立金の算定根拠は全く不明である上、通常、修繕積立金は管理費の剰余金とは区別して適性に運用・管理されているのに対し、本件各管理組合においては、管理費の剰余金と全く区分されることなく、ほぼ全額が業務委託しているH社へ無利子で預けられているのであり、およそ適正な管理がされているとは認められないことを考慮すれば、これを管理費と同様の損金扱いとすることはできない。 したがって、被告Y税務署長が、修繕積立金の全額について、法人税法22条3項2号及び法人税基本通達2-2-12を適用して、原告Xらが、本件各管理組合に支出した時点においては、当然に損金ではなく、前払費用であるとして、本件各管理組合において実際に修繕等で費消された額のみを修繕等で行われた日の属する事業年度の損金であると判断したことは合理的である。

    (3)そもそも、本件各管理組合は、原告Xらから独立した団体としての組織を備え、その組織によって運営されているとはいえないから、本件各管理組合は、標準的なマンション管理組合のような権利能力なき社団には該当しない。 このような、本件各管理組合は、管理組合としての実体がなく、いわば原告Xらが本件各管理組合に本件管理費等を「支出」したのは、単に、自らの組織内で資金を移動しただけ、あるいは、本件各管理組合名義の預金口座に預け入れただけと見るのが相当である。 そうすると、原告らの本件管理費等の「支出」は、形式的に本件各管理組合に資金が移動した時点では費用として支出されたものとは認められず、本件各管理組合から業務委託を受けた原告X2によって、本件各マンションの業務費用等又は修繕費用等として実際に費消された時点で、初めて費用として支出されたものとして損金性が認められるものというべきである。

    (原告Xらの主張)

    (1)原告Xらの本件各管理組合に支出した本件各管理費等は、以下のとおり、法人税基本通達2-2-12における具体的判断基準の3つの要件をすべて満たしており、当該事業年度の終了の日までに債務が確定している。

    (ア)当該事業年度の終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること 本件各管理規約13条及び14条により、毎月負担すべき管理費、修繕積立金があらかじめ定められており、しかも同16条には、管理費等は返還されない旨規定されている。

    (イ)当該事業年度の終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること 原告Xらと本件各管理組合は人格を異にする別組織であり、本件各管理費等は、人格の異なる組織に対して組織に対して本件各管理規約に従い、支払われている。 支払先である本件各管理組合自体に当該事業年度終了の日までに給付をなすべき原因となる事実が発生していないことと、区分所有者である原告Xらの債務が確定していないことは別問題である。

    (ウ)当該事業年度の終了の日までに金額を合理的に算定することができること 本件各管理組合に支払う管理費及び修繕積立金は、原告Xらのこれまでの経験、他の同種物件との比較により概ね合理的に算定できるので、これを平準化して管理規約において定めている。

    (2)被告Y税務署長は、本件修繕積立金のうち剰余金相当額につき損金算入は認められないと主張するが、修繕積立金は、@マンションを区分所有することにより不可避的かつ義務的に負担しなければならない性質の支出であること、Aマンションの区分所有者の合意のもとに一定の修繕計画に基づき算出されたもので、特定の者の都合や思惑で決定されたものではないこと、B譲渡等で区分所有者の変更があった場合でも積立金の残金が返還されることは慣行上なく、かつ、変更後の区分所有者についても管理組合規約が適用されること、C共用部分の大規模修理に充てられるもので、区分所有者の専有部分の修理に当てられるものではないこと、D管理組合の実際の修繕費の支出の都度費用化する会計処理は、実務上煩雑であること、E毎月の1室当たりの負担金は少額であること、といった理由から、支出時に損金として計上することが認められるというべきであり、実際にその取扱いが会計慣行として定着している。

    (3)被告Y税務署長は、本件各管理費等のうち業務費用等及び修繕費用等に使用されなかった剰余金については、前払金として処理するものとして、損金性を認めなかったが、今日の商慣行において、マンションなどを売買する際に管理組合に貯まっている管理費等を売買価格に加算することがないことからも分かるように、当該剰余金につき前払金としての資産性は存在しない。

    (4)被告Y税務署長の指摘する本件の特殊な事情を考慮したとしても、原告Xらが本件各管理組合を設立し、本件各管理組合に対して本件各管理費等を支払い、支出した金額全額を損金処理するという経済行為には合理性があり、社会通念に照らして節税行為として許容されるべきものである。 被告Y税務署長は、原告Xらの一連の行為を租税回避行為ととらえ、否認しようとしているが、租税法律主義のもとでは、法律の根拠がない限り、租税回避行為の否認は認めていない。

     判決要旨

    <認定事実>

    (1)原告Xらによる本件各マンションの区分所有の状況

    本件各マンションは、いずれも原告Xら4社のうち2社又は3社のみによって区分所有されている。

    (2)原告らの状況

    (ア)X1について、株式の全てを代表取締役Aが単独で保有。役員は、Aの妻B、Aの子C、外部者G(経理責任者)。 (イ)X2について、株式の94%を代表取締役Aが保有し、残りをAの妻B、Aの子C及びDが保有。役員はAの子D、Aの母E、外部者G。 (ウ)X3について、株式の80%を代表取締役A、Aの妻B、Aの子C及びDにより保有。残りをG(19.4%)、原告X4、X4保有マンションの売却先であるH社が保有。役員は、代表取締役がA(後Aの子C)、取締役にAの妻B、Aの弟F、監査役にAの子D。 (エ)X4について、株式の51%を原告X3が、24%をH社が保有し、残りを原告らの関連会社である訴外I社(22.6%)、Aの子C及びDが保有。役員は、代表取締役にAの子C、取締役にA、Aの妻B、G、監査役にAの子D。 (オ)訴外H社について、株式の51%を原告X2が、15%をX4が保有する同族会社であり、役員は代表取締役A等、すべてAの親族が占めている。

    (3)本件各管理組合の運営状況等

    (ア)本件各管理組合は、いずれも、本件各業務委託契約を、原告X2に委託している。

    (イ)原告X2は、本件各業務委託契約に関して作成された重要事項説明書において、@管理組合会計帳簿及びA長期修繕計画案・修繕資金計画案の作成を行うこととされていた。それにもかかわらず、本件各管理組合は、当該帳簿及び計画案はいずれも作成していない。

    (ウ)原告X2は、本件各業務委託契約3条に基づく事務管理業務として、「必要に応じ、甲・乙協議の上、余剰資金を定期預金・積立型保険等に運用する」と規定されていた。それにもかかわらず、原告X2は、本件各管理組合に生じた剰余金をH社に対して無利息で貸し付けた。

     争点に対する判断

    (1)管理費の損金算入について

    マンションの区分所有者が法人である場合において、当該区分所有者が当該マンションの管理組合に対して支出した管理費は、通常は、その支出時において、その全額につき、法人税基本通達2-2-12の各要件を充足し「債務の確定しているもの」(法人税法22条3項2号参照)に該当するとして、損金算入が認められている。

    これは、区分所有者の支出する管理費は、本来は、その支出時点では前払費用等として区分所有者の資産勘定に計上されるべきところ、@一般に、管理費の額は、当該会計期間に管理組合から支出される区分所有建物の共用部分、敷地及び付属施設の維持管理を行うための諸費用(本項においては、以下、単に「諸費用」という。)の額を過去の実績等に基づきあらかじめ積算した上で、合理的に算出されるものであること、Aしたがって、区分所有者から支出された管理費は、通常は、その大部分が支出された会計期間において諸費用として費消され、たとえ剰余金が生じるとしても少額であること、Bそもそも管理費が、組合員である区分所有者がその地位に基づいて当然に支払うべき金銭であること等の理由から、当該剰余金に対して課税しないとしても、重要性の原則の観点から見て課税上弊害がないと考えられることを根拠として、支出時において、その全額につき、損金算入が認められているものと考えられる。

    したがって、管理費の額が合理的に算出されているとは認められず、また、区分所有者から支出された管理費の大部分が支出された会計期間において管理組合によって諸費用として費消されず多額の剰余金が生じるような場合には、たとえ管理費の名目で区分所有者から管理組合に支出された金銭であったとしても、実際に管理組合によって諸費用として費消された金額についてのみ「債務の確定しているもの」(法人税法22条3項2号参照)該当するものとして損金算入が認められ、その余の剰余金については「債務の確定しているもの」には該当せず損金算入は認められないというべきである。 そこで、本件管理費につき、まず、多額の剰余金が生じているかについて検討するに、前記認定のとおり、原告らが支出した本件管理費の額のうち業務費用等として実際に支出された額と、業務費用等として使用されなかった剰余金の額は、別表8-1ないし8-4のとおりであるところ、これを見るに、本件管理費について多額の剰余金が生じていることは明らかである。

    別表13-3によれば、本件管理費のうち業務費用等として実際に支出された額の割合(以下「実支出割合」という。)は、いずれの会計期間においても、本件各管理組合について平均すると30%に満たない(70%を超える割合の金額が剰余金となっている。)ものである。これに対して、標準管理組合においては、管理費のほとんどが業務費用等として実際に支出されている(実支出割合は95%を超えており、100%を超えている会計期間もある。)。ちなみに、本件その他の管理組合における、実支出割合は、3期分の平均で、概ね83%となっている。このように、本件各管理組合における実支出割合は、標準管理組合や本件その他の管理組合における実支出割合に比して著しく低い割合である。 これらを併せ考えると、本件管理費の額は、到底、本件各管理組合において諸費用の額を過去の実績等に基づきあらかじめ積算した上で合理的に算出したものと認めることはできない。

    一連の資金の流れを見る限り、このような資金の流れを可能とすべく、意図的に本件各管理組合のもとに多額の剰余金を生じさせるために、区分所有者としての原告らが本件各管理組合に対して必要以上に多額の管理費を支払うこととしたのではないかと考えられるところである。

    加えて、本件管理費の大部分が、支出された年度において本件各管理組合によって業務費用等として費消されず、多額の剰余金が生じていると認められることなどを併せ考慮すると、実際に本件管理組合によって業務費用等として費消された金額についてのみ損金算入が認められ、その余の剰余金については損金算入は認められないというべきである。

    (2)修繕積立金の損金算入について

    マンションの区分所有者が法人である場合において、当該区分所有者が当該マンションの管理組合に対して支出した修繕積立金は、これを収受した管理組合において実際に修繕等の費用に充てられず、将来の特別修繕の費用に充てるために留保されている間は、法人税法上、当該事業年度終了の日までに具体的な給付をすべき原因となる事実が発生しておらず、「債務の確定しているもの」(法人税法22条3項2号参照)に該当するとはいえないことから、当該修繕積立金を当該事業年度の損金の額に算入することはできないというべきである 本件修繕積立金については、その一部は実際に修繕費用等として使用されているものの、その大部分は剰余金として本件各管理組合の財産目録に記載されているのであるから、その剰余金相当額については、「債務の確定しているもの」(法人税法22条3項2号参照)に該当するとはいえず、当該事業年度の損金の額に算入することはできないというべきである。

    (3)原告らの主張の検討

    (ア)原告らは、原告らが本件各管理組合に支出した本件管理費等については、法人税基本通達2-2-12における具体的判断基準の3つの要件をすべて満たしており、当該事業年度の終了の日までに債務が確定していると主張するが、本件管理費等につき「債務の確定しているもの」(法人税法22条3項2号参照)に該当するとは認められないことは、前記(1)及び(2)のとおりであるから、原告らの上記主張は採用できない。

    (イ)原告らは、修繕積立金は支出時に損金として計上することが認められるべきであり、実際にその取扱いが会計慣行として定着していると主張するが、原告らが書証として提出する税務解説図書においても、修繕積立金は管理組合において実際に修繕等に充てられるまでは前払金等として処理することが一般的な取扱いであるとする趣旨の記載が存在し、ほかに原告らが主張するような会計慣行が存すると認めるに足りる証拠はない。 原告らは、本件各管理組合において生じた剰余金等がH社に無利息で貸し付けられたことについて、ペイオフ対策であり本件各管理組合にとってもメリットがあったなどと主張するが、当座預金や決済用普通預金であれば、預入した金融機関が経営破綻した場合であっても預金保険法により全額保護されること等に照らせば、あえて原告らが金融機関ではなくH社に無利息で貸し付けることにつき本件各管理組合にとって利点があるとは認められず、その説明は到底合理的なものとはいえない。

    (ウ)原告らは、原告らが本件各管理組合を設立し、本件各管理組合に対して本件管理費等を支払い、支出した金額全額を損金処理するという経済行為には合理性があり、社会通念に照らして節税として許容されるべきであって、租税法律主義のもとでは、法律の根拠がない限り、租税回避行為の否認は認められないから、本件管理費等について、支出時点で全額損金算入することを認めるべきと主張する。しかし、前記(1)び(2)とおり、本件管理費等について法人税法22条3項2号及び法人税基本通達2-2-12の要件を検討して損金算入が認められるか否かを判断することは、要するに証拠による事実認定の問題であって、何ら租税法律主義に反するところはないというべきであるから、原告らの上記主張は失当といわざるを得ない。

     考察

    (1)マンションを巡る状況の変化

    一棟の建物を区分して数人で所有することが、共同建築や分譲マンションなどの増加により多くなり、昭和37年に「建物の区分所有等に関する法律」が制定された。昭和58年に大改正された後、平成14年、平成20年と改正されて、平成23年改正法は未施行である。

    平成14年改正の契機として、平成7年の阪神淡路大震災による建物復旧に際して、マンション法が機能しきれなかったことが挙げられている。震災被害を受け、建物の再建を図るために、建て替えを検討する際に、昭和58年改正法は、「復旧建替えにおける反対者に対する買取請求や売渡請求に関して、その買取価格について「時価」による価額を採用した。経済的トラブルの発生などあり得ないとした前提で立法(※1)」されたことも一因だったようである。ちなみに、阪神淡路大震災における復旧のために、平成7年に「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」(債権特別措置法)が制定され、「将来の場合も含めて、大規模な災害で政令に定めるものに限っては、建物の全部が滅失したときにも、区分所有法の建替えに関する規定に準じて特別多数決議により再建を可能(※2) 」にした。

    分譲マンションが増加し始めた昭和30〜40年においては、自己使用のためにマンションを購入し、利用することが想定されていたが、建築・分譲後の時間経過に伴い、区分所有者の状況に変化が顕著になっている。「マンションの区分所有者が賃貸等を行うようになり、非居住者たる区分所有者が増加するというのも、1つの例」であり、「居住者の高齢化によって生じる問題」も出てきている状況である(※3)。

    「管理組合の役割が自治会的機能(※4)」を持っている場合も多いため、区分所有者と居住者が原則として一致していた時代であればまだしも、区分所有者が非居住者であるケースが増えてくると、組合から脱退することが許されない区分所有者の性質上、管理組合理事を構成する居住区分所有者から不満が出てくるケースも多い。

    「区分所有者が法人でその従業員等が居住している場合」であれば、「法人自身を居住者として扱い、管理者や理事に選任することもでき、その代表者や代理人が、役員や管理組合としての活動に参加すればよい」とされ、「区分所有者が不在であるがその家族が居住している場合」には、「現住の家族を区分所有者と一体とみて、その居住者が世帯の代表として行動すればよい」とされている(※5)。しかし、「所有者が継続的に居住することがないリゾート・マンションや、もっぱら投資目的物件で居室を貸し、賃借人のみが居住するもの(不動産特定事業法が適用され、区分所有者が持分しか持たないものも含む)の場合には、自治会的機能の必要性も乏しく、当初からそのような物件であることが明白なので、分譲契約と同時に業者に管理を全面的に委ね、賃貸マンションに近い管理形態になることが多いと思われ(※6)」、いわゆるマンション法の制定目的からも離れてしまうことも想定される。

    こうした状況において、平成12年にはマンション管理の適正化を推進する目的のために「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(マンション管理適正化法)が、平成14年には、平成7年に創設された前述の再建特別措置法に加え、「マンションの建替え全般について、建替え決議後の建替え事業を円滑に進めることを目的として(※7)」、「マンションの立替の円滑化等に関する法律」(マンション建替え円滑化法)が制定されています。

    (2)マンション管理費の分担をめぐる最高裁平成22年1月26日判決

    駐車場専有使用権をめぐって、平成10年末には、最高裁判決が相次いで4件出されました。つまり、管理組合が分譲業者が取得した専有使用権分譲代金を請求する最高裁平成10年10月30日判決(判時1663号90頁)、最高裁平成10年11月22日判決(民集52巻7号1555頁)、駐車場専有使用権の解除及び使用料増額の可否が争われた最高裁平成10年11月30日判決(民集52巻7号1604頁)、駐車場専有使用の消滅決議及び有償化決議の効力が争われた最高裁平成10年11月20日判決(判時1663号102頁)である。

    最高裁は、使用権分譲代金の帰属は分譲業者にあるものと判示し、使用料の増額については、「管理組合は、原則として規約または集会決議をもって専有使用権者の承諾を得ることなく使用料を増額することはできるが、その増額の程度は社会通念上相当な額を超えるときは、「特別の影響」を及ぼすとして、専有使用権者の承諾を得る必要がある(※8)」と判示しました。

    ところで、約2割の区分所有者が非居住者となってしまったマンションの管理組合が、マンションの管理運営に関する負担の不均衡に不満を持つ居住区分所有者の声に応えて、非居住区分所有者に対し、1戸当たり5000円の住民活動協力金を負担する旨、管理組合総会に提案したところ、特別決議の可決に必要な4分の3を超える約78%の賛成を得て可決し、3年後にはこれを半額にする決議をした上で、和解が成立しない非居住区分所有者に対して、これを請求した最高裁平成22年1月26日判決(判時2069号15頁)がある。

    最高裁は、「いわゆるマンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は、本来、その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものであって、上記のような状況の下で、Xが、その業務を分担することが一般的に困難な不在組合員に対し、本件規約変更により一定の金銭的負担を求め、本件マンションにおいて生じている不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平を是正しようとしたことには、その必要性と合理性が認められないものではない」と判示した上で、「本件規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較衡量し、加えて、上記不利益を受ける多数の不在組合員のうち、現在、住民活動協力金の趣旨に反対してその支払を拒んでいるのは、不在組合員が所有する専有部分約180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員にすぎないことも考慮すれば、本件規約改正は、住民活動協力金の額も含め、不在組合員において受忍すべき限度を超えるとまではいうことができ」ないとして、「特別の影響」に当たらないと判示した。

    つまり、居住する区分所有権者による自治会的機能を踏まえ、社会通念上相当な金額であれば、非居住区分所有権者に応分の金銭負担を求めることを許しているのであるから、居住する区分所有権者と非居住区分所有権者との法的構成に違いが生じても致し方ないと捉えることが可能となる。 つまり、非居住区分所有権者の法的構成は、投資目的の賃貸マンションを所有する事業者に近いと言いえるのである。

    (3)高経年化マンションの増加と修繕積立金

    「マンションに快適な居住環境のまま居住し、マンションの資産価値を維持・向上するためには、マンションを適切に管理し、経年劣化等に対して適時に適切な修繕を行うことが必要である。修繕は、大規模なものになれば多額の費用がかかり、その費用を個々の区分所有者が大規模修繕時にまとめて負担する仕組みだと費用が適切に集まらない可能性があるため、あらかじめ大規模修繕のための長期修繕計画を策定した上で、必要な修繕積立金を積み立てておくことが必要となる(※9)」。

    「もっとも、高齢者の多いマンションでは、改修工事の実施以前に、そもそも改修工事のための資金が不足するという問題を抱えていることがある。すなわち、改修工事の実施には、多額の資金が必要であるところ、区分所有者に高齢者が多くなると、例えば主たる収入が年金である高齢者は必ずしも高額な年金を得ているわけではないので、管理費や修繕積立金の値上げが困難になることがあり、その結果、長期修繕計画どお利に必要資金が積み上がっていないことがある(※10) 」。

    そのため、国土交通省は、平成23年4月、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を公表した。ここでは、「マンションの良好な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、計画的な修繕工事の実施が不可欠ですが、修繕工事の費用は多額であり、修繕工事の実施時に一括で徴収することは困難です。このため、将来予想される修繕工事を盛り込んだ長期修繕計画を策定し、これに基づき、月々の修繕積立金の額を設定することが重要」であるとの問題意識から、目安となる修繕積立金の算定方法や積み立て方法を明らかにしている。

    (4)本件事例への当てはめ

    マンション法の考え方が、居住区分所有権者を前提としたものから、非居住区分所有権者の存在を認めつつ、ただ、居住区分所有権者とは異質な、事業者としての一面を持つことを踏まえると、マンション管理組合に拠出した管理費や修繕積立金の損金性の議論に債務確定主義の考え方が、当然に入り込んでくることになろう。 居住区分所有権者については、支払われた管理費等は家事費に該当するから、当然に必要経費性はない。非居住区分所有権者は、投資目的の不動産事業者との違いはないのであるから、管理費については、管理費相当額の支出については当然必要経費性が認められるべきであるが、不相当に高額な管理費については、その必要経費性に疑問符がつくであろう。また、修繕積立金については、基本的には前払金であるから、修繕行為に使用された分だけが必要経費になる、という考え方は首肯できる。

    しかし、管理組合における管理の実態が適正なものであったとしても、各区分所有権者に管理委託業者から管理業務を逐一報告されることはなく、管理組合役員に対する報告があるに過ぎない。このような実態を鑑みるならば、管理委託業者からの報告を逐一確認できなければ、必要経費算入額が決定できないことになり、不合理な結果を生むことになりかねない。

    そこで、管理委託業者の業務が適正に行われ、少なくとも、善意の第三者である各区分所有権者においては、管理規約において適正に決定された管理費、修繕積立金、その他協力金等については、支払い時に必要経費算入が認められる必要が出てくることになろう。

    しかし、本件においては、長期修繕計画を策定していなかったり、適正保管義務のある修繕積立金残余額を、H社に無利息で貸し付ける等、管理委託業務が適正に行われていたとは認めがたい認定事実があり、損金性が否定せざるを得ない事例であったといえる。

     参考文献

    1. 九鬼正光「建物の区分所有等に関する法律の改正についてー復旧及び建替えを駐印としてー」蒲ァ地評価研究所レポート、2004、2頁、
      http://www.richi.co.jp/report/articles/2004/kubunn.html
    2. 鎌野邦樹『マンション法案内』勁草書房2010、22頁
    3. 道垣内弘人「特集に当たって」ジュリスト1402号、2010、4頁。このような問題提起からジュリストは「特集・居住状態の変化とマンションをめぐる法的課題」を組んでいる。
    4. 松岡久和「マンション管理と非居住者」ジュリスト1402号、5頁
    5. 松岡、前掲注4、5-6頁
    6. 松岡、前掲注4、5頁注2
    7. 鎌野、前掲注2、23頁
    8. 鎌野、前掲注2、57-58頁(引用は最高裁平成10年11月30日判決)
    9. 熊谷則一「マンション居住者の高齢化」ジュリスト1402号、44頁
    10. 熊谷、前掲注9、45頁
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