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    被相続人が排他的・専属的に管理してきた預貯金が相続財産と認定され、税理士にこの一部のみを相続財産とする申告を行わせたことが「事実を隠ぺいする」ものとされた事例
    (名古屋地裁平成20年12月11日判決、税資258号244頁) 税理士 平 仁

     事実の概要

     本件は、平成13年8月9日に死亡した乙の相続人である原告甲が、相続税の申告をしたところ、中川税務署長から更正処分及び重加算税の賦課決定処分を受けたため、これらの各処分の取り消しを求めた事案である。

     前提事実

    平成13年 8月 9日 乙死亡、相続人は長男甲、長女丁、次男戊の3名。
    平成13年 9月18日 相続人、d税理士立ち会いの下、本件貸金庫の内容物として、「本件 貸金庫内預貯金等」(合計1億9504万2957円)及び「原告主張固 有財産」(合計5655万7495円)を確認。
    平成13年10月末頃  d税理士、本件貸金庫内預貯金等の他、甲が亡乙の生前に扱って保管していた預貯金、傷害保険等を記載した「本件一覧表」(合計1億9601万5943円)を作成。
    平成13年11月26日 原告甲・d税理士と丁・戊(丁ら)が依頼したD弁護士による遺産分割交渉において、d税理士、本件一覧表を交付。
    平成14年 6月 6日 原告甲、中川税務署に相続税を申告(預貯金額6635万7369円)。
    平成16年 9月28日 丁ら、本件相続財産に係る持分の確認及び不当利得を求める訴え(別訴)を名古屋地裁に提訴。
    平成17年 7月 7日 中川税務署長による更正処分(預貯金額は本件貸金庫内預貯金等、原告主張固有預貯金を含む2億5160万452円)。
    平成19年 3月 5日 名古屋国税不服審判所裁決。(預貯金額は更正処分から原告主張固有預貯金を除く1億9504万2957円)。
    平成19年 3月27日 別訴名古屋地裁判決。本件貸金庫内預貯金等及び原告主張固有預貯金は本件相続財産に当たり、丁らが各1/3の共有持ち分権を有す ることを確認する旨。
    平成20年 4月 9日 別訴名古屋高裁判決。本件貸金庫内預貯金は本件相続財産に当たるが、原告主張固有預貯金は本件相続財産に当たらない旨。<確定>

     争点

    (被告Y税務署長の主張)

    1. 本件預貯金等が本件相続財産を構成するか。また、亡乙は原告らに対し債務を負っていたか。
    2. 本件における税務調査(本件調査)が違法か。
    3. 本件当初申告が国税通則法70条5項所定の「偽りその他不正の行為」に当たるか。
    4. 本件当初申告が国税通則法68条1項所定の「隠ぺい」する行為に当たるか。  本稿では、紙面の都合もあり、争点Aについては言及しない。

     争点1について

    <原告甲の主張>

    (1)昭和57年合意の存在

    亡丙は、昭和57年10月1日、亡乙同席の下、原告甲及びAと話合いを持ち、原告らの名義の預貯金が合計2億1000万円(本件預貯金)あることが確認された(昭和57年合意)。

    亡乙は、昭和57年合意の後、これらの預貯金等を自ら保管を開始し、これらの預貯金等が自己の管理となったことをよいことに、その名義を勝手に自己や架空人等の名義に変更した。

    d税理士は、昭和61年1月、亡丙の相続税調査の一環として、関係する預貯金等のすべてを拾い出した。税務調査を担当した担当係官Iは、d税理士の面前で、亡乙に対し、これらの預貯金について原告らの名義に戻すよう求めたところ、亡乙はこれを了解し、その後まもなく、原告甲に対しても同様の約束をした。亡乙はその後も上記預貯金等について上記約束を履行しなかったが、原告ら及びd税理士は、その履行を求めることはなかった。

    亡乙の死亡後に原告らが調査したところ、本件預貯金はすべて名義が変更されており、その相続開始時における合計額は1億811万8724円であるから、少なくともこれらについては、本件相続財産を構成しない。そして、亡乙は、この金額につき、約束を履行していないことになり、亡乙は、その相続開始時に、原告らに対し同額の債務を負担していた。 また、仮にこの預貯金等の財産が本件相続財産を構成するものと認定された場合には、亡乙は本件相続開始時に原告らに対し、2億1000万円の債務を負担していた。

    (2)本件一覧表の位置づけ

    本件一覧表は、d税理士及び原告甲が、原告主張固有預貯金を除外して、まず全部を拾い出して作成したものにすぎず、その上で順次調査をしてその帰属を明らかにしようと考えていた。原告とd税理士が本件一覧表をD弁護士に見せた際にも、本件一覧表記載の財産すべてを本件相続財産と認めたことはない。

    (3)貸金庫の件

    本件貸金庫は、原告甲がC銀行下之一色支店と取引をしていて信用があったため借りることができたもので、亡乙だけでは借りられなかった。また、亡乙は、原告らに属する2億1000万円分の預貯金について、原告らの名義に変更することを約していたのであって、本件貸金庫内の預貯金をすべて自分の財産であると考えていたわけではない。

    <被告税務署長の主張>

    (1)本件一覧表の位置づけ

     d税理士は、原告の承諾の下、本件貸金庫内に保管されていた預貯金等のうちから、原告主張固有預貯金のみを除外し、本件預貯金等を除外することなく本件一覧表を作成している。原告及びd税理士とD弁護士との間で行われた本件相続に係る遺産分割交渉等においては、d税理士が作成した本件一覧表記載の預貯金等が本件相続財産を構成することが前提とされており、原告は本件預貯金等が本件相続財産を構成すると認識していた。

    (2)貸金庫の件

     本件貸金庫は、亡乙の使用申込みにより使用が開始され、その使用料は、亡乙名義の預金口座からの引き落としにより支払うこととされていた。また、本件貸金庫について、亡乙以外の者による開扉を予定する旨の届出はなく、実際に本件相続開始までの3回の開閉はすべて亡乙によって行われていたのであるから、本件貸金庫の内容物は、亡乙が現実に占有して支配管理していたものであって、亡乙もこれらを単独で管理する意思を有していたというべきである。 <裁判所の判断>  特に、〔1〕原告及びd税理士が、原告主張固有預貯金を本件相続財産には属さないとして本件一覧表に記載しなかったのに対し、本件預貯金等は本件一覧表に記載していたこと、〔2〕d税理士が、本件相続に係る遺産分割交渉において、D弁護士に対し、本件一覧表に原告の財産が含まれている旨の留保を付さないままこれを交付したことなどに照らすと、原告及びd税理士は、本件預貯金等が本件相続財産を構成することを前提として本件相続に係る遺産分割交渉を行っていたものと認めるのが相当である。

     原告及びd税理士が本件預貯金等の内容、金額等について全く把握していなかったことにかんがみれば、亡乙は、本件貸金庫を排他的、専属的に管理していたものと認められる。これらの事実に照らすと、本件預貯金等はいずれも亡乙が取得・管理してきたものであって本件相続財産を構成するものと認めるのが相当である。

     これに対し、原告は、本件預貯金等の原資は昭和57年合意によって確認された原告ら預貯金であると主張する。しかしながら、多額の財産の帰属について書面を取り交わさなかったというのは不自然である上、原告らは、昭和61年に、原告ら預貯金の多くが亡乙によって架空人又は丁ら名義の預貯金に変えられていることを知ったにもかかわらず、その後これを放置していたというのであり、昭和57年合意が成立したと認めることはできない。

      争点3及び4について

    <裁判所の判断>

     国税通則法70条5項は、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものというべきである。  原告及び原告の依頼を受けたd税理士は、本件預貯金等が本件相続財産に当たることを認識していたものと認められるところ、d税理士において、本件預貯金等の一部のみが本件相続財産であるとして相続税を算定し、納付すべき税額を0円とする虚偽の申告を行ったのであるから、かかる行為が「偽りその他不正の行為」に当たることは明らかである。そうすると、納税者である原告から申告の委任を受けたd税理士が偽りその他不正の行為を行い、これにより原告が税額を免れたものと認められるから、原告は「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ」たものに当たる。

     原告は、本件預貯金等が本件相続財産に属することを認識しながら、d税理士をして、本件預貯金等の一部のみを本件相続財産とする申告を行わせたものと認められるから、原告の行為が「事実を隠ぺいする」ものに当たることは明らかである。

     問題点

    被相続人が占有する財産について相続財産を構成しないと主張する相続人に対して、相続人が主張するとおりの申告を行った税理士の行為は「偽りその他不正の行為」に当たるか

     検討

     税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場に於いて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることが使命(税理士法1条)とされる専門職業人である。そして、「納税者は、一般に、税理士に対し税務申告手続の煩わしさから解放されるとともに、法律に違反しない方法と範囲で必要最小限度の税負担になるように節税することを期待して委任するのであり、これを超えて脱税をも意図して委任するわけではないことなどが考慮され」(東京高裁平成18年1月18日判決、税資256号順号10265)ているが、「依頼人と専門家との間の専門的知識や経験の格差からすれば、税理士が節税措置義務を適正に履行するために依頼人の意思を確認する必要性は決して小さなものではない(※1) 」と考えられる。「つまり、税理士は『税務に関する専門家の立場から依頼者に対し不適正の理由を説明し法令に適合した適切な助言や指導をして、依頼者が法令の不知や税務行政に関する誤解等によって生じる損害を被ることのないようにすべき注意義務がある』から、『当初の見込みに反して結局のところ更正処分や過少申告加算税の賦課決定を招くことも予想される』場合には、『依頼者にその危険性を十分に理解させる義務がある』と考え(※2) 」るべきである。

     事例1(平成23年5月23日裁決)でも明らかなように、他人名義であっても当該財産の支配管理の状況から占有所有権が確認できる場合には相続財産と認定されるのであり、法的安定性を確保する必要性から長期にわたる当該物件の占有支配の現況を認める取得時効の趣旨をかんがみれば、本件では、昭和57年合意や昭和61年の亡丙相続税調査にも関与するd税理士は、亡乙による本件預貯金の占有支配を理解してしかるべきであったと言わざるを得まい。d税理士に対する税理士損害賠償訴訟の提起が懸念されるところであった。

     また、本件では、d税理士が虚偽の申告をしたことが原告の行為として認定されているが、この点につき、税理士による脱税事件であるいわゆるM税理士事件最高裁判決(最高裁平成17年1月17日判決、民集59巻1号28頁)は次のように判示している。「国税通則法70条5項の文理及び立法趣旨にかんがみれば、同項は、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものというべきである」。この点につき、酒井克彦教授は、「最高裁判決は、(略)偽りその他不正の行為が税理士によって行われているであろうことを漠然と認識しているような場合には、通則法70条5項の適用があると理解しているようである(※3)」と指摘する。

     また、国税通則「法68条1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に対し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要」としておらず(最高裁昭和62年5月8日判決、最高裁判所裁判集民事151号35頁)、「重加算税制度がそもそも納税義務違反に対する行政制裁であること、かかる納税義務の履行については、納税者本人以外の従業員等の補助者又は納税申告の委任を受けた代理人が当該課税標準等の計算に従事すること等により履行されることが多いこと(略)等からみて、国税通則法68条の規定は、隠ぺい又は仮装の行為者に納税者本人に限定することを予定していたものと解し得ない(※4) 」から、本件のように税理士と共謀、ないし、税理士を道具として使っている場合であっても、重加算税の対象となる「隠ぺい」行為に当たると判断した本判決は妥当である。

     参考文献

    1. 酒井克彦「税理士の依頼人に対する意思確認義務」税務弘報53巻9号、61頁
    2. 拙稿「税理士の専門家責任」税法学554号、43頁。拙稿は、大阪高裁平成13年3月13日判決(判時1654号54頁)を引用する。
    3. 酒井克彦『租税実務必携 付帯税の理論と実務』ぎょうせい2010年、391頁
    4. 品川芳宣『附帯税の事例研究[第3版]』財経詳報社2002年、301頁
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