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    【書評】酒井克彦「裁判例からみる法人税法」
     大蔵財務協会2012年8月刊

    本書は、新進気鋭の国税庁OB研究者である酒井克彦国士舘大学教授がロースクール用の講義資料として執筆された、判例を素材とした法人税法の解説書である。ケースブックと理論解説を併せた他に類を見ない構成となっており、156もの判例を丁寧に整理することにより、法人税法の各条文をどのように解釈すべきかについて、法人税法を取り巻く社会の変化に対応して、その指針を明らかにするのが本書の役割であろう。

    税法解釈を巡る納税者と税務署の見解が異なるケースでは、税務調査等の税務行政の現場では解決の道を探ることが難しく、この争いを法的に仲裁する場面が裁判ということになるから、判例を学ぶことは税法を学ぶことに他ならず、判例学習は実体法や手続法の学習の上に位置している。その意味では、ロースクールの学生や大学院生のみならず、税務実務の現場にいる税理士や税務職員こそ、判例を学ぶ必要があろう。本書はそのナビゲーターである。

    裁判例も半数を超える82事例が損金事例であり、総ページ数も300ページと全体の約40%を占める等、争われることが多い損金算入要件の検討が本書の中心を占めている。

    例えば、損金の意義について、東京地裁昭和33年9月25日判決(行裁例集9巻9号1948頁)は、「総損金が商品の価値に転嫁されるもの又は製造活動もしくは販売活動を円滑に遂行するために必要な支出換言すれば当該事業遂行に通常かつ必要な費用を意味すると解すべき」と判示するが、酒井教授は「しかしながら、このような通常性を肯定する根拠となる実定法上の根拠はなく、損金の範囲を狭く解釈しすぎているように思われる。…他の条項においても通常性が要件とされる場合には「通常」と規定していることとの平仄をみても(例えば、所法57の2、69、73等)、実定法が「通常性」を要件としていないと解するのが素直な解釈ではないかと思われる (本書276頁)と指摘される等、判決文を鵜呑みにすることなく、法解釈の判断基準として使えるかどうかを検討している。

    とかく税理士は、判決の勝った負けたという結果に目を奪われがちであるが、判決を読む場合には、なぜこのような判決が下されたのかに着目しなければならない。その意味で、本書を使う際には、酒井教授のコメントに注意する必要があろう。

    司法制度改革から早10年。ロースクールで租税法を学んだ者が裁判官や弁護士になる時代である。また、納税者勝訴率もかつてのように2〜5%ではなく、20%を超えている。これからの時代は、税理士も租税法の専門家として租税法を根拠とした実務判断を行わなければ、納税者から税賠訴訟を訴えられかねないだけに、税理士が判例を学ぶことの重要性は高まっていると言えよう。

    本書のボリュームに圧倒されそうであるが、法人税法を学ぶ上で常に手元に置き、辞書代わりに常に確認しておきたい書であろう。

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