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    臨時特例企業税条例事件(最判H25.3.21)(1)

     事案の概要

     本件は、被告神奈川県が神奈川県臨時特例企業税条例(平成13年神奈川県条例37号。同年8月1日施行)を制定し、地方税法4条3項、259条以下の規定に基づく道府県法定外普通税として、神奈川県内に事務所又は事業所を有し資本の金額又は出資金額が5億円以上の法人に対し、法人事業税の課税標準である所得の金額の計算上、繰越控除欠損金額を損金の額に算入しないものとして計算した場合の所得の金額に相当する金額を課税標準とし、税率を原則3%(平成16年4月1日以降は2%)とする臨時特例企業税を課したところ、その対象となった原告が、本件条例は法人事業税につき繰越控除を定めた地方税法の規定を潜脱して課税するものであり、違法・無効であるなどとして、被告に対し、企業税・過少申告加算税・延滞税に相当する金額の誤納金の還付を請求した事例である。

     本件条例の制定及び改正の経緯

    H13.3.21  神奈川県議会において本件条例可決(平成13年神奈川県条例37号)
    H13.3.22  神奈川県 総務大臣に対し、企業税の新設について協議の申し出
    H13.4.4   総務大臣 財務大臣に通知、財務大臣から異議の申し出なし
    その後   総務大臣と神奈川県による協議
    H13.6.20  地方財政審議会 企業税について同意することが適当と考える旨の意見
    H13.6.22  総務大臣 企業税の新設に同意
    H13.7.2   本件条例 公布
    H13.8.1   本件条例 施行
    H15   地方税法改正(H16.4.1施行) 法人事業税にいわゆる外形標準課税一部導入
    H16   神奈川県 条例改正(平成16年神奈川県条例18号)
          ただし、総務大臣に協議の申し出をしておらず、その同意を得ていない
    H16.4.1   神奈川県 改正条例施行

    課税及び不服申立の経緯

    H16.6.28  原告 県税事務所に申告(H15分)
    H16.6.30  原告 税額を納付
    H16.11.8  原告 県税事務所に更正の請求
    H16.12.6  県税事務所 更正をすべき理由がない旨の通知
    H17.1.24  原告 神奈川県知事に審査請求
    H17.4.27  神奈川県 棄却する旨の裁決
    H17.6.15  原告 県税事務所に申告・納付(H16分)
    H17.6.16  原告 県税事務所に更正の請求
    H17.7.20  県税事務所 更正すべき理由がない旨の通知
    H17.7.22  原告 神奈川県知事に審査請求
    H17.10.20  神奈川県 棄却する旨の裁決
    H17.10.22  H15,16分の本件各通知の取消しを求めて本件訴訟を提起
    H19.5.22  県税事務所 本件各更正等の処分
    H19.6.22  原告 本件各更正等の処分による税額・過少申告加算税を納付
    H19.6.28  原告 神奈川県知事に本件各更正等について審査請求
    H19.7.9   原告 本件各更正等の処分による延滞税を納付
    H19.8.8   神奈川県 本件各更正等について棄却する旨の裁決
    H19.8.24  原告 本件各更正等の取消しを求める訴え等を追加

     争点

    1. 本件条例の適法性及び有効性
    2. 本件各更正等の有効性
    3. 誤納金・還付加算金の額
    本発表では、争点1について検討する。

     横浜地裁平成20年3月19日判決(判時2020号29頁) 納税者勝訴

    1. 地方団体の課税権

     地方団体が、地方自治の本旨に従い、国から独立した地位においてその財源を管理し、事務を処理し、及び行政を執行していくには、その財源を自ら調達する権能、すなわち課税権を有することが必要であり、地方団体の課税権は、地方自治の不可欠の要素であり、地方団体の自治権の一環として、憲法上保障されているものと解すべきである。  法律は、地方団体が課税権を行使する際の具体的準則ないし枠を設けるものであり、当該法律が地方団体の課税権を実質的に否定するものとして地方自治の本旨に反する場合は格別、地方団体の課税権は、具体的には、当該法律の規定に従って行使されなければならない。  地方団体の課税権が地方自治の不可欠の要素として憲法上保障されていると解されることに照らし、地方税法上の規定もこのような地方団体の課税権の趣旨に即して解釈、運用するようにしなければならないとしても、当該課税権は、あくまでも地方税法上の具体的準則に従って行使されなければならないものというべきである。

    2. 法定外税の沿革及び趣旨

     法定外税の課税は、その税目、課税客体、課税標準及び税率等があらかじめ法定されておらず、道府県が自己の判断においてこれらを決定できる性質のものであることからして、法定税の場合に比べ、道府県の課税権がより直接的・自主的な形で現れたものということができる。

     法定外税の新設又は変更の具体的要件及び手続きについては、国民の租税負担や国の経済施策への影響、地方団体の財政の健全性確保の必要性、地方団体内の税源や財政需要の存在の要請及び地方団体の自主的な課税権の重要性等の種々の要素を考慮して、その時々の法律によって定められてきたものである。そして、現行の地方税法は、地方分権の推進の観点から、地方団体の自主的な課税権が特に尊重され、道府県において、総務大臣との同意を要する協議という比較的軽微な手続によって、法定外税の新設又は変更をすることができるものとされているところである。

     法定外税の趣旨は、道府県において、第一義的には法定税を課する一方で、道府県の自主的な課税権に基づき、その実情に応じて法定税の課税を補充するため、法定税以外の課税をすることにあるということができる。

    3.総務大臣との同意を要する協議制度及び不同意事由の趣旨

     法定外税の新設又は変更は、特定の道府県の住民のみに租税負担を増加させ、地方団体間の物の流通に影響を及ぼすことがあり、またその他国の経済施策の実施に影響を与える可能性があるため、国の施策との整合性を確保し、その施策の実施に著しい支障が生じることを防ぐという観点から、法定外税の新設又は変更について、総務大臣の同意を要するものとされ、地方税法261条各号の事由が定められているものと解される。

     そうすると、法定外税の新設又は変更に係る同意を要する協議制度は、国の行政機関たる総務大臣が、道府県の法定外税の新設又は変更に事前に関与することにより、異なる行政主体間において経済施策等の施策の整合性を確保するという、行政目的の下で設けられているものということができる。そして、地方税法261条各号に規定する不同意事由は、関与の必要最小限度の原則(地方自治法245条の3第1項)や同意を要する場合を限定する規定(同条4項)の趣旨に照らせば、これらの不同意事由に該当しなければ同意しなければならないものとすることによって、上記行政目的での国の関与の態様を限定する趣旨のものということができる。

     地方税法261条各号の事由は、住民の負担が著しく過重となるか、国の経済施策に照らして適当でないかといった、政策的判断を含む抽象的・一般的な定めをしているにすぎないこと、また、地方税法が想定する「租税一般原則」があるとしても、法定外税がそれに合致して適法であるかどうかは、客観的に定まるものであって、国の行政機関と道府県とが協議して相互の意思の合致に至るような性質のものとは解されないことからすれば、同条各号の事由が、異なる行政主体間の施策の整合性を確保するという趣旨を超えて、「租税一般原則」といった観点から法定外税の適法性を審査するためのものであるとは解することができない。

     以上のとおり、法定外税の新設又は変更に係る総務大臣との同意を要する協議は、異なる行政主体間において経済施策等の施策の整合性を確保するという、行政目的の下にされるものであって、当該法定外税の適法性を審査する性質のものではないから、企業税の適法性は、総務大臣の同意の判断如何にかかわらず、本訴において別途判断されるべき問題である。

    4.法定税に係る規定と法定外税との関係

     道府県において、地方税法の規定に従い法定税を課すべき場合であるにもかかわらず、法定外税の創設により、実質的には地方税法が当該法定税について定めた規定の趣旨に反するような課税をすることは、道府県において法定税を法定の準則に従い課すべきものとした地方税法の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。

     確かに、法定外税は、条例の制定だけでなく、総務大臣との同意を要する協議という、法定税よりも厳格な手続きを経て新設又は変更されるものである。

     しかし、総務大臣との同意を要する協議は、法定外税につき国の経済施策との整合性を確保するという行政目的の下にされるものであって、地方税法が、このような手続を経ていることの一事をもって、当該法定外税と法定税に係る法定の準則との法的な整合性を不問に付す趣旨であるとは解することはできない。

     法定税に係る法定の準則と関わりなく、総務大臣による地方税法261条所定の不同意事由への該当性の裁量的判断によって、道府県の課税権の行使の許否が定まることは、行政機関の判断に過大な権能を与えることにもなりかねない。地方税法は、地方団体による課税権の行使につき、法律による準則ないし枠を設けるという地方税法の性質や、立法と行政との関係からしても、不合理な解釈というべきである。

     法定外税が法定税に係る規定の趣旨に反するかどうかの検討には、当該法定外税及び当該法定税並びに各関係規定の、趣旨、目的、内容及び効果を比較対照することが必要である。

    5. 企業税及びその規定の趣旨・目的

     被告は、景気の悪化により法人事業税を初めとする県税収入が減少したことによる財政的な危機を受けて、神奈川県地方税制等研究会に対し、地方税財政制度のあり方について諮問し、同研究会が、国レベルでの法人事業税日外形標準課税の導入が見送られたことを踏まえて、法定外税として企業税を創設することを提言したことを受けて、企業税の新設を内容とする本件条例を制定したものである。

     企業税の課税標準及び税率の趣旨・目的は、法人事業税における欠損金額の繰越控除のうち一定割合(30%)について、その控除を実質的に遮断し、当該部分に相当する額を課税標準として課税する効果を意図しつつ、この割合を税率の設定に反映させ、課税標準を繰越控除欠損金額に相当する利益額とし、税率を当該割合と法人事業税の税率(約10%)を掛け合わせた原則3%としたものということができる。そして、この30%という割合は、主として、投機的な損失による欠損金額についてはその繰越控除を否定し得るとの考え方の下、諸外国の制度等も勘案して、このような欠損金額全体に占める割合を数値化した趣旨のものである。

    6. 法人事業税と企業税との関係

     本件条例の文言上、企業税の課税標準は、繰越控除欠損金額を控除しない場合の所得すなわち当該所得の金額として規定されており、繰越控除欠損金額の存在それ自体を課税対象とする構成にはなっていない。しかし、課税標準は課税客体を金額化ないし数量化したものであるところ、企業税の課税標準の金額は常に繰越控除欠損金額と同額なのであるから、少なくとも課税標準の計算上は、本件条例7条1項の規定は、実質的には「企業税の課税標準は、法人事業税における繰越控除欠損金額とする。」という趣旨に読み替えることが可能である。

     そうすると、企業税は、実質的には、欠損金額の繰越控除によって法人事業税における課税対象である所得から控除される部分の当期所得を課税対象とし、繰越控除欠損金額を課税標準として課税する効果を持つものということができる。

    7. 法人事業税及びその規定の趣旨、目的及び効果

     確かに、法人事業税の租税としての趣旨・目的は、行政サービスの対価の負担という、応益原則に基づくものと解されるところである。しかし、行政サービスの対価を負担させることを租税としての趣旨・目的としつつ、具体的な課税標準の設定の段階においては、法人の担税力を考慮に入れ、その担税力に見合う限度で税負担を求めることは、租税政策上の当否はともかくとして、何ら矛盾するものではない。

     立法担当者においても、当該所得の算定方法として法人税の課税標準である所得の計算の例を用いることとした理由として、二重調査の回避という便宜面をあげているが、そもそも法人事業税の課税標準として法人税と同様の所得の金額を採用した理由は、法人の担税力に配慮したことにあると解されるところである。

     法人の所得を長期的に把握し、もって法人の担税力を的確に課税に反映させるという欠損金額の繰越控除規定の趣旨・目的は、法人事業税についても妥当するものと解すべきであり、このことは、昭和29年の地方税法改正において定められた法人事業税の課税標準の枠組みを維持している改正前地方税法下の法人事業税及び改正後地方税法下の法人事業税の所得割に至るまで、別異に解する理由はない。

    8. 企業税が法人事業税に係る規定の趣旨に反するかどうか

     改正前地方税法下では、限定された要件の下で初めて、欠損金額の繰越控除を含めた法人事業税の課税標準の特例が認められていたことからすれば、当該特例の要件を満たす場合以外は常に、改正後地方税法下では、当該特例の適用外とされた法人については常に、欠損金額の繰越控除を含めた地方税法所定の法人事業税の課税標準の規定を全国一律に適用すべきものとする趣旨であると解される。

     少なくとも、法人事業税と租税としての趣旨・目的及び課税客体が共通する法定外税の創設によって、全国一律に適用すべき法人事業税の課税標準の規定の目的及び効果が阻害されることになることは、当該課税標準の規定を定めた地方税法の趣旨に反するものといわなければならない。

     法人事業税と企業税とは、租税としての趣旨・目的及び課税客体を共通にするものであり、企業税の課税により、法人事業税の課税標準につき欠損金額の繰越控除を定めた規定の目的及び効果が阻害されることは、既に判断したところであるから、企業税の課税は、地方税法上の当該規定の趣旨に反するものというべきである。

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